スパイ防止法の危うさ
高市首相は11月26日の党首討論で「スパイ防止法」について、「もう今年、検討を開始して速やかに法案を策定することを考えている」と発言しました。日本維新の会は連立政権合意書にスパイ防止法策定を明記し、国民民主党と参政党も法案を国会に提出し積極的に進めようとしています。政府の法案の中身はまだ明らかになっていませんが、私たちの「知る権利」など人権が侵害され、市民への監視が強まるのではないかと危惧します。
1985年中曽根政権下でもスパイ防止法が国会に提出されましたが、言論や報道の自由を侵すと反対の世論が高まり、野党だけでなく自民党内にも反対派がいて、廃案になりました。しかしその後、2013年には第2次安部政権下で「特定秘密保護法」が成立、さらに2024年には「経済秘密保護法」が制定されました。この時も「特定秘密」とは何か?対象者は?罰則は?など、「知る権利」が制限されるのではないかと疑問の声があがりました。「国の安全保障に著しく支障を与える恐れがある」とされれば、公務員や自衛隊のみならず、マスコミや市民も処罰の対象になります。
「スパイ防止法」では、「特定秘密」には指定されていないが国が公表していない情報が対象になります。日本はインテリジェンス(情報)機能が脆弱で、「スパイ天国」となっているので、国家情報局を創設し、情報要員を養成すると言っています。アメリカのCIA(Central Intelligence Agency)や007で有名になったイギリスのM16(Secret Intelligence Serviceの通称)が思い浮かびます。
情報戦略といってもさまざまです。プロパガンダやサイバー攻撃、SNSによる世論操作、フェイクニュースの拡散からいわゆる諜報活動など。対策が必要なものもありますが、高市首相の台湾有事における存立危機事態の発言や国旗損壊罪の新設をめざすなど、その政治姿勢には危うさしか感じられません。
かつて沖縄返還のときの「密約」問題では、元毎日新聞記者のスクープについて、女性事務官との男女関係による取材方法が争点となり、機密文書の存在は当初否定されていました。その後、アメリカの公文書公開によって密約の存在が明らかになりました。高市首相が継承すると言っている安倍政治では、森友問題などで公文書の隠蔽、改ざんが行われました。情報公開に関するこのような政府の体質のもとで、国民を監視し「知る権利」を侵害するような法律の制定は危険と言わざるを得ません。
世界の報道の自由度ランキングで、日本は世界180の国と地域のうち66位、G7で最下位です。まず改善するべきは、政府の情報公開に関する認識の低さです。

